2012年11月28日水曜日

1990年のローリング・ストーンズ初来日公演




せめて月刊ペースでブログを更新しよう、と思っていたが、
ビックリするほど期間が開いてしまった。
書きたい情報はあるが、まとめる時間の余裕がない。
なんですが、急に思い立ってすげえ個人的な思い出話を書きます。
当初のもくろみから外れるけれど、まあいいでしょ。自分のブログだし。


題して《1990年のローリング・ストーンズ初来日公演》です。

先日、ローリング・ストーンズ50周年記念コンサートのチケットを取った。
何度も海外のチケットサイトで申し込む予行練習をして、
発売日の発売時間にはパソコンの前に張り付いていたけれど、
チケットは瞬殺で売り切れてしまい、その時点でキッパリ諦めるはずが、
気がついたら転売サイトでバカ高いチケットをポチっていた。
本来ならはるばるニューヨークまで遊びに行けるご身分じゃないのだが、
もう取ったんだから海を越えて行けと、ロックの神さまが言っている。

そこで昔話。


高校3年生の1月だから、もう20年以上も前のこと。
センター試験の前日、家の電話が鳴った。
受話器の向こうで、友達の大内くんが興奮して叫んでいた。

「ムラヤマ!取れたぞ、ストーンズ、取れたぞ!」

奇しくもその日はローリング・ストーンズ初来日公演の発売日で、
そういえば確かに大内くんは
「ボク、チケット取るから一緒に行こうな」と言っていた。
うろ覚えだけど、安請け合いで「ああ、行く行く」なんて、
二回くらい重ねて言った気が、する。

実はストーンズの大ファンだったわけじゃない。
中学生の頃にみんなで回して聴いたベスト盤のカセットからは、
アクの強いミックのボーカルの後ろで、
なんだか汚い(と当時は感じた)キースのコーラスが重なって、
ラジカセのチープな音質がさらに軋んで聴こえた。
正直ヘタだと思っていた。

ようやくストーンズのカッコ良さに気づいたのは高2のときで、
それも映画館で偶然出会った『花のあすか組!』の予告編。
BGMでかかっていた「サティスファクション」の
ファズの効いたあのリフとリズムに魅せられて、
それまでビリー・ジョエルに夢中だった自分は、
たぶんあの瞬間に、ロックに目覚めたのだと思う。
結局『花のあすか組!』はいまだに観てないけど、
きっとカッコいい映画だったに違いない。

とはいえアルバムなんて一枚も持ってなくて、
あったのは、ひとからもらったベスト盤LP二枚組だけ。
すごく音楽好きなひとがくれたので、
きっといい音楽なんだろう、と自分に言い聞かせて繰り返し聴いていた。
そういえばそのひとは、数年後にガンで亡くなった。
いろいろお世話になったけど、ストーンズに関しても恩人だ。

で、大内くんの話に戻ります。

大内くんだって翌日はセンター試験を受けるってのに、
必死で予約の電話をかけ続けていたというじゃないか。
早くも志望大学に受かったんじゃないかと思うくらい
嬉しさがあふれ出した声を聞いて、
「わかった、行く」以外の返事ができる鉄の意志は持ち合わせていなかった。

大学受験、という名目で上京して、親戚の家に泊めてもらうと、
テレビでは毎朝「いまストーンズが来ています」と話題にしていて、
そんなに大事件なのかと驚いた。
そして試験と試験に挟まれたコンサートの当日。
大内くんと待ち合わせて、東京ドームに向かった。
生まれて初めて入った東京ドームは、
ストーンズ初来日の興奮と熱気に包まれていた。

いや、ウソだ。ウソつきました。

東京ドーム、初めてじゃなかったです。
高2の夏に、青春18キップで鈍行を乗り継いで、
ビリー・ジョエルを観に東京ドームに来てました。
前座はインペリテリ。
対バンがフーターズとアート・ガーファンクルとボズ・スキャッグス。
で、大トリがビリー・ジョエル。
単に所属レーベル繋がりだったんだろうけど、
いま思えばこのブッキングしたひと、おかしいでしょ絶対。

なので人生二回目の東京ドームは、初来日の興奮で包まれていた。
大内くんが取ってくれたのは、スタンド席の一番後ろから二列目。
ミック・ジャガーはマッチ棒よりも小さくて、
演奏も歌もあちこちに反響して、
最初から最後まで輪唱みたいにこだましていたが、
それでもすごいものを観た。
少なくとも、そう信じたし、そういう風に憶えている。

この日のために綿密な予習してきた大内くんは、
「ライブ盤の歓声に、日本人が「カッチョイイー!」って叫んでるのが聴こえるねん。
 ボクも、その曲のその瞬間に「カッチョイイー!」って叫ぼうと思う。
 たぶん、好きな人はみんな、そこで「カッチョイイー!」って叫ぶと思うねん」
と、言う。

自分も事前にライブ盤のその箇所を聴かされたのだが、
言われてみれば「カッチョイイー」のようでもあり、
まったく違う雑音のようでもあり、正直判然としない。

それでも待ち構えたその瞬間、大内くんは満を持して、
予告通りに「カッチョイイー!」と叫んだ。
一応、叫んだ。おずおずと、少し小声だった。
巨大なドームの端っこで、聞こえてきた「カッチョイイー!」は彼の声だけだったけど、
彼はやった。やってのけたのだ。
あの日、確かに大内くんは、ストーンズに向かって「カッチョイイー!」と叫んだのだ。

大内くんとライブに行ったのはそれが最初で最後だった。
いや、もしかすると二度目だったかも。
大阪城ホールに男ばかりで連れ立って行った
バナナラマのライブに一緒にいたような気もするが、思い出せない。
とにかく、それが大内くんと行った最後のライブになった。

その後、大内くんは「いつかこの曲を恋人とデュエットするのが夢やねん」と言って
ポーグスの「ニューヨークの夢」という曲も教えてくれた。
その夢がかなったかどうか知らないが、
2004年に、ポーグスがオリジナル・メンバーで再結成ツアーをしたときに、
久々に連絡を取って「一緒にイギリスまで観に行かないか」と誘ってみた。
自分と同じように30代になっていた大内くんは、
「行きたいけど仕事があるし」というすごく真っ当な理由で断った。
その後、2回くらい会う機会があったが、
いまは台湾に住んでいるはずで、
唯一の連絡手段であるメールアドレスもどこにあるのか見つからない。

台湾にいる大内を、もし誘ったら一緒にニューヨークに行ってくれたんかな。
また「カッチョイイー!」と叫んだかな。
自分は絶対に「カッチョイイー!」とは叫ばないと断言するけど、
ニューヨークのスタンド席で、
どこかから「カッチョイイー!」って声が聞こえてきたら、と夢想したら、
半月後のコンサート当日がものすごく楽しみになってきた。

最後に初来日公演でやった大好きな曲「SLIPPING AWAY」。
スタジオ録音だとミックもバックコーラスしてるんだけど、ライブではミックは袖に引っこんで休憩してしまうのが残念。


※追記 調べたら初来日公演でキースが歌ったのは
 「Can't Be Seen」と「Happy」だったっぽい。
 この曲をライブで聴いた気がするのは、
 たぶん95年のヴードゥー・ラウンジ・ツアーのときだな。

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