2016年6月22日水曜日

『君が生きた証』全47曲解説

『君が生きた証』(2014・米/原題:Rudderless)でクエンティンを演じたアントン・イェルチンが、6月19日に不運としか言いようのない事故で亡くなりました。すでに脳内でイェルチン=クエンティンと化している自分は『君が生きた証』のことばかり考えてしまい、ネットを覗いてみると同じようにイェルチン=クエンティンに想いを馳せている人が大勢いて、勝手に連帯のようなものを感じています。

『君が生きた証』で使われている音楽に関しては、映画ライターという仕事と趣味の両方でいろいろ調べていましたので、劇中で流れる全47曲を登場順に並べて解説を書いてみました。どうかと思われる長さ(約9000字)ですが、ご興味のある方、自分のように『君が生きた証』に魅せられてしまった方のご参考になれば幸いです。


(重要なネタバレは避けたつもりですが、そもそも映画「君が生きた証」を観ていない人にはほぼ役に立たない内容かと思います)














まず、サントラ盤の歌詞・対訳はこちらから。
(ランブリング・レコーズ公式より)

●M01:ASSHOLE
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Ben Limpic
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
映画の冒頭を飾るアコギ一本の弾き語りで、主人公サムの息子ジョシュのオリジナル曲という設定。「Home」と同様に、劇中歌の作詞作曲を担当したコンビ“ソリッドステート”がストックしていた曲で、メイシーはこの2曲を聴いて「いかにもジョシュが書きそうな曲」と感じ、劇中曲を任せる決意をしたという。ジョシュ役を演じたのは俳優のマイルス・ヘイザーだが、歌声はサンディエゴ在住のミュージシャンベン・リンピックが担当している。

(※くっついたり離れたりの腐れ縁の女性との別れを歌った内容ですが、自説を述べさせていただくと、ジョシュが身勝手な自分のことを自嘲的に歌っているようでいて、実は“ASSHOLE”とはケイトのことであり、離れていった彼女への揶揄と未練を歌っている気がしてなりません。ほとんど妄想の域ですけれども)

●M02:SING ALONG  Josh version
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Ben Limpic
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
未完成のまま遺されるジョシュの最期のレコーディング。この時点ではまだ「Sing Along」と歌うサビのパートが存在しておらず、タイトルも付いていない。ジョシュの曲はどれも鬱屈、混乱、孤独が感じられると同時にシニカルなユーモアが宿っているのだが、この曲だけはネガティブな気持ちをベタにそのまま吐き出している。ジョシュが曲作りに行き詰ったのも当然だったのかも知れない。余談だが、ソリッドステートの歌詞の版権を管理している会社名義が「ナカトミ・プラザ・パブリッシング」。『ダイ・ハード』由来のふざけた名前である。

●M03:(曲名不明)
Written and produced by Eef Barzley
葬式の後、サム(ビリー・クラダップ)がジョシュの部屋にいるシーンで流れるピアノ曲。『君が生きた証』の音楽はオルタナカントリーバンド、クレム・スナイドのイーフ・バーズレイが手掛けているが、この曲はサントラに収録されておらず、詳細がわからない。哀しい旋律を持ったピアノ曲で、楽器の編成を増やした別バージョンも存在する。『君が生きた証』には胸が苦しくなるような悲しいシーンも少なくないが、マイナー調のBGMは実はこの一曲だけ。

●M04:SAM SPIRALS
Written and produced by Eef Barzley
シンプルなギターとコーラスが印象的な、本作のスコアを代表する軽いタッチの一曲。ジョシュの死を受け入れられず、マスコミに追い回されて混乱しているサムの姿を追ったモンタージュのバックで流れる。メイシー曰く、編集が上手くいかずに悩んでいたシーンだったが、イーフ・バーズレイが書いた曲を乗せたとたんにシーンがまとまって見えて驚いたという。サントラに収録されているものとは微妙にアレンジが異なる。

●M05:TWO YEARS HUNG OVER
Written and produced by Eef Barzley
ジョシュの死から2年後。広告代理店の仕事を失い、湖に停泊したヨットで暮らすサムの姿にかぶるBGM。イーフ・バーズレイらしい、ウクレレで情景をスケッチしたような楽曲。撮影が行われたのはオクラホマシティ郊外にあるヘフナー湖。女の子がサムの立小便を目撃して笑うレストランは撮影用に建てられた仮のセットで、現実には存在しない。

●M06:(曲名不明)
Written and produced by Eef Barzley
映画の序盤でサムが自転車で通勤する時に流れるBGM。後半に登場するM32「A DAYS ON THE WATER」のコーラスパートがない別バージョンと思われる。サントラには未収録。

●M07 :WHORE IN THE MORNING
Written by Kate Micucci
Performed by Kate Micucci (as Peaches)
Produced by SolidState
ウィリアム・H・メイシー扮するトリルが経営するライブバー「トリル・タヴァーン」のオープンマイク(飛び入りステージ)で最初に登場するキャラ、ピーチズがエレキウクレレで弾き語る、自分を裏切った浮気男への呪詛を歌った楽曲。やさぐれビッチ風にピーチズを怪演したのは女優、ミュージシャン、コメディアンのケイト・マイカッチ。メイシーとは旧知の友人同士だそうで、2人でウクレレデュエットを披露したことも。有名デュオの“じゃない方”をユニット名にした「ガーファンクル&オーツ」というコミックソングコンビでも活動している。

◇サムの小ネタ、ジョン・ゴッティとは?
トリルの店で仕事仲間のクイック(劇中で名前を呼ばれるシーンはない)から素性を訪ねられ、サムは「マフィアを密告して証人保護下にある」と答える。英語を聴くと「マフィア」ではなく「ゴッティを密告して」と話している。ゴッティとは2002年に獄中で亡くなったイタリアンマフィアジョン・ゴッティのこと。ジョン・ゴッティは1990年に逮捕され、手下の密告によって終身刑を言い渡された。ゴッティを密告したサミー・グラヴァーノは実際に1994年から1995年までFBIの証人保護プログラムに入っていた。

●M08:SHOULDER TO THE WHEEL
Written and Performed by Travis Linville (as Nick Harvard)
Produced by Brad Heinrichs
オープンマイクのステージで、バンジョーとハーモニカで弾き語るニック・ハーヴァード(役名)の曲。カントリーブルース調の雰囲気のある曲だが、Aメロの最初の一節しか流れないのが残念。歌っているのはオクラホマ州タルサのミュージシャン、トラヴィス・リンヴィル。本人が映画に出演した経緯を語っているライブ映像があるのでリンクを貼っておきます。劇中ではメガネをかけたオタクっぽい風貌だったが、なかなかのイケメン。

●M09:SOME THING CAN’T BE THROWN AWAY
Written and produced by Eef Barzley
元妻のエミリー(フェリシティ・ハフマン)が置いて行ったジョシュの遺品を前に、逡巡するサムのシーンで流れるBGM。曲のタイトルがいちいちシーンの説明になっていてわかりやすいのはサントラならでは。スコアを手がけたイーフ・バーズレイについてメイシーは「天才だよ、彼が曲を付けてくれたことで映画の完成形が見えたんだ」と絶賛しているが、曲のアイデアをウクレレと鼻歌だけで送ってくるので、どんな曲に仕上がるのかが想像できずに戸惑ったとも語っている。「でもイーフは「大丈夫、レコーディングしたらオーケストラみたいに聴こえるからさ」って言うんだよ(笑)」。

(※あと凡ミスを指摘すると、このシーンでサムがジョシュに贈るはずだった誕生日プレゼントの箱を捨てようとするのだが、後に中身がマーシャルのギターアンプだと判明するので、あんなに軽々と持ち上げるのは不可能かと)

●M10:STAY WITH YOU  Josh version
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Ben Limpic
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
サムが最初に聴くジョシュのデモ音源。アッパーでキャッチーな名曲だが、サムはわりと簡単に見切ったのか曲が終わる前に再生をやめてしまっている。ここで流れるのはサントラ未収録のベン・リンピックが歌うバージョン。コーラスパートはリンピックによるオーバーダビングだろうか。

●M11:HOME  Josh version
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Ben Limpic
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
サムが最初に歌うことになるジョシュのデモ音源。生ギターと打ち込みドラムの宅録風仕上げ。家に帰りたいけれど帰れない、と孤独と郷愁を歌った内容で、サムが「STAY WITH YOU」より強く反応したのは、こちらの方がジョシュの心の内を覗く手がかりになると直感したからだろうか。前述したように、映画のために書き下ろされたオリジナルではなく、もともとソリッドステートの2人がストックしていた曲だが、歌詞も含めて本作で非常に重要な役割を果たしている。サントラには未収録。

●M12:I DON'T GIVE A DAMN
Written and Performed by Matthew Stratton (as Bryan)
Produced by Brad Heinrichs
サムが初めて出演する日のオープンマイクで、会社員と思しきスーツ姿の常連客ブライアンが歌っていたカントリー風の失恋ソング。撮影が行われたオクラホマ在住のミュージシャン、マシュー・ストラットンがブライアン役にキャスティングされ、自作曲を弾き語っている。

●M13:GOT A LOT OF NERVE
Written by Chelsey Cope
Performed by Chelsey Cope and Tara Dillard (as Tolly and Tina)
Produced by Brad Heinrichs
オープンマイクのシーンで「トリーとティナ」という女性2人組が歌っていた曲。トリーを演じたミュージシャンチェルシー・コープのオリジナル曲。デュエットしているタラ・ディラードもオクラホマシティ在住のミュージシャンで、地元のライブハウスで共演している音楽仲間らしい。同じシーンで披露されるサムの演奏に反応したのはクエンティン(アントン・イェルチン)1人だけのように勘違いしがちだが、トリーもサムの歌を耳にして視線をステージに向けている描写がある。ちなみにトリーはエイケンの彼女的な立ち位置で後のシーンに再登場する。
※チェルシー・コープの原曲

●M14 :HOME
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Billy Crudup
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
サムが湖の管理をしているアレアドを皮肉った“アラード・ディック”名義でオープンマイクに出場。初めて人前でジョシュの遺した歌を披露する。サム役のビリー・クラダップは『あの頃ペニー・レインと』(2000年・米)でロックバンドのギタリスト役を演じているが、当初はギターはほとんど弾けず、ピーター・フランプトンのコーチを受けて猛特訓した。『あの頃ペニー・レインと』のキャメロン・クロウ監督は「撮影が終わってからもビリーから電話がかかってきて「こんなフレーズが弾けるようになったんだ!」と電話越しに聴かされたよ(笑)」と同作のDVDコメンタリーで回想していた。サントラに収録されている「HOME」は、M11に近いトラックにクラダップのボーカルを乗せた別バージョン。

◇ジョシュのギターの話
サムが弾いているアコースティックギターはジョシュの遺品であるエピフォン製のアコギ。ボディには王冠のマークが入っていて、どのタイプなのかを調べてみたが王冠マークのエピフォンは存在しなかった。映画を注意して見てみると、王冠マークはカッティングシートを使った手製だとわかる。自分のギターに王様の印を貼りつけていたジョシュの意図は劇中では語られることがないが、ジョシュという若者の一面を覗く手がかりになる気がする。ちなみに映画後半の字幕でデルがサムに「エレキギターは(やめたのか)?」と訊ねているが、原語では「あの古いエピフォンはどうした?(Thought you played that old Epiphone.)」であり、エレキの話はしていない。

●M15:REAL FRIENDS  Josh version
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Ben limpic
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
クエンティンに「ほかの曲もあるでしょう?」と言われたサムが、ジョシュのデモ音源を漁るように聴き込むきっかけになる曲。リンピックのフォーキーな歌唱に味わいがあるのだが、残念ながらこのバージョンもサントラには未収録。明るい曲調ながらブラックな諧謔に満ちた歌詞であり、ユーモアと不穏さが共存しているのがいい。

●M16:HOME session
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Billy Crudup and Anton Yelchin
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
サムが歌った「Home」に魅せられたクエンティンが、サムのヨットに押しかけて初めてセッションをするシーンで登場。「派手じゃなくシンプルにコーラスを入れるべきだ」と主張するクエンティンが重ねるハーモニーは、サムならずともグッとくる瞬間のひとつだが、このシーンで一度きりしか聴けないのがもったいない。

●M17:BE BY YOU
Written by Minna Biggs & Drava Millvojevic
Performed by Honkey Tonk StepChild
Produced by Brad Heinrichs
サムとクエンティンが組んだ初ステージの前に、オープンマイクに出場していた夫婦風デュオの曲。ウッドベースとバイオリンでコンビを組んでいるのはオクラホマシティのカントリーミュージシャン、ホンキー・トンク・ステップチャイルド。“ケイシー&ミナ”(Casey & Minna)という別名義でも活動中。

●M18:REAL FRIENDS
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Billy Crudup, Anton and Ryan Dean
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
サムとクエンティンが初めて一緒にステージに立つシーンの楽曲。クエンティンの仕込みで、ドラムのエイケンも途中から参加。メインボーカルはサム(クラダップ)で、コーラスはクエンティン(イェルチン)。エイケン役のライアン・ディーンはイェルチンのバンド「The Hammerheads」にも参加していた本職のミュージシャンで、9歳でアメリカ国内のヨーヨーチャンピオンになったというヘンな経歴の持ち主。サントラに収録されているバージョンはイェルチンのエレキギターなどが大きく異なっており、よりスタジオ録音風。

◇ラダレス(Rudderless)の楽曲について
劇中で結成されるバンド、ラダレスの演奏は、基本的にはメンバーを演じた出演者4人が実際に楽器を演奏し、歌っている。プロデュースを務めたのは楽曲のほとんどを作詞作曲したサイモン・ステッドマンとチャールトン・ペッタスのコンビ「ソリッドステート」。当初メイシーは役者たちに実際にライブ演奏させながら撮影しようと考えていたが、ステッドマンとペッタスが強硬に反対した。「前にも経験があるが、絶対に先にレコーディングしてあて振りをするべき、例えローリング・ストーンズをキャスティングできたとしてもライブ撮影はやめた方がいい」とメイシーを説得したという。演奏の間違いやアドリブ風の部分も事前にスタジオで録音されており、スカイウォーカーサウンドの音響スタッフがライブの演奏に聞こえるように、ギターのスクラッチノイズなどを足しながら最終ミックスを行った。

●M19:DEVIL EYES
Written and Performed by Gary Michael Schultz and Brad Heinrichs
Produced by Brad Heinrichs
劇中で姿は映らないが、サムとクエンティンが「Real Freiends」を披露した後にステージに立ったミュージシャンが演奏しているブルース。クレジットによるとパフォーマンスしているのは本作の共同プロデューサーで映画監督でもあるゲイリー・マイケル・シュルツと、本作の脚本家コンビが監督したインディーズ映画『ランニング・マン』(原題The Jogger/2013・米、日本未公開)で音楽を担当していたブラッド・ハインリクスらしい。ハインリクスはトリルの店に出演したミュージシャン全般のプロデュースも担当している。

●M20:OVER YOUR SHOULDER
Written by Finian Greenall (FINK)
Performed by Rudderless
Produced by SolidState
Courtesy of Tenyor Music (BMI)
「天使と悪魔に挟まれている」という内容が如実に表しているように、作曲者であるジョシュの引き裂かれた内面を最も象徴している曲。ラダレスが演奏する曲では例外的にソリッドステートの2人ではなくイギリスのシンガーソングライターFINKのペンによるもの。メインボーカルはクエンティン(イェルチン)で、サムのジョシュのアコギではなくエレキギター(クエンティン所有のメーカー不明のレスポール)を弾いている。映画ではこの曲からベーシストのウィリー(ベン・クウェラー)が参加し、メロディアスなベースとコーラスで大活躍する。本職がシンガーソングライター/ギタリストであるクウェラーは、脚本を書いたケイシー・トゥウェンターとジェフ・ロビンソンのコンビから早い段階でアプローチを受け、メイシーが企画に関わる前から本作への参加を快諾していた。一時はキース・キャラダイン主演、クウェラーがクエンティンを演じる案もあったらしい。劇中ではジョシュが歌うバージョンが出てこないが、ベン・リンピックの声で録音されたバージョンは存在していないのだろうか。

●M21:STAY WITH YOU
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Rudderless
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
ラダレスの曲では唯一、サムもクエンティンもアコースティックギターを演奏する楽曲。メインボーカルがクエンティン(イェルチン)、コーラスのメインはウィリー(クウェラー)だが、2番のみ2人の役割が入れ替わるのが地味なアクセントになっているのが面白い。

●M22:GIRLS THOUGHTS
Written by Fancois Rousseau
Performed by Circ
Courtesy of Extreme Music
バンド名“ラダレス”の名義で初ライブを成功させた後にトリルの店でかかっているクラブミュージック。奥手すぎて女の子に声をかけられないクエンティンの戸惑いと曲名がシンクロしているのが可笑しい。

●M23:HOLD ON  Josh and Kate version
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Ben Limpic and Selena Gomez
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
仕事中のサムがウォークマンで聴いているジョシュのデモ音源。ジョシュと恋人だったケイト(セレーナ・ゴメス)のデュエット曲で、ベン・リンピックとセレーナ・ゴメスが歌っている。サントラに収録されているのはリンピックではなく、ウィリー役のベン・クゥエラーがジョシュのパートを受け持った別バージョンで、ドラムをエイケン役のライアン・ディーンが、キーボードとコーラスでウィリアム・H・メイシーが参加。メイシーが監督・出演したミュージックビデオも制作された。またネット上には微妙に歌詞が異なる初期バージョンと思しき音源も出回っていて、歌う前にセレーナ・ゴメスとベン・クウェラーのふざけたやり取りが聴けるのが微笑ましい。

●M24:(曲名不明)
デル(ローレンス・フィッシュバーン)が経営する楽器屋で、デルとサムが会話しているバックに1人でギターを試し引きしている客がいる。IMDBでキャストのリストを見る限り、ザッカリー・ターナーという俳優ではないかと推察されるが、実際に撮影現場で演奏していたのか後にオーバーダビングされた音なのかは不明。

●M25:BEAUTIFUL MESS (インスト)
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Quentin
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
クエンティンが自宅で宅録している、オリジナル曲のデモ。クエンティンはバイオリンを演奏しているが、アントン・イェルチンはバイオリンが弾けず、音源に合わせてフリをしているそうだ。しかしクエンティンは一時はホームレス生活を送っていたのにバイオリンの素養があって、一体どんな少年時代を過ごしていたのだろうか。

●M26 :LA POMME DE LAMO(推測)
Written by Jim Blake
Courtesy of Extreme Music
音楽クレジットから推察するに、サムとクエンティンがショッピングモールにやってきたシーンでモール側が流しているBGMだと思われる。インディーズレーベルのコンピレーションCDに収録されていた曲のようだが、入手が難しいようで確認ができない。クレジットでは「LA POMME DE LAMO」と表記されているが誤記であり、「LA POMME DE L’AMORE(愛の林檎)」が正式タイトルだと思われる。ちなみにショッピングモールの撮影が行われたのはオクラホマシティ郊外にあるQuail Springs Mall(住所:2501 W Memorial Road, Oklahoma City)。

●M27 :SUNRISE(推測)
Written by Peter Axelrad
Performed by DJ AXEL
Courtesy of Holden Records Inc.
おそらくモールのアパレルショップでかかっているクラブ風BGM。クレジットからするとこの曲しかない気がするのだが、DJ AXELの「SUNRISE」をネット上で聴いてみた限り、どうも同じ曲ではない気がしている。別バージョンなのかミックスのせいで違って聞こえるのか、そもそもこの曲ではないのかがよくわからず、どなたか情報あれば教えてください。

●M28:WHEELS ON THE BUS
Traditional
Performed by Rudderless
Arrangement by Charlton Pettus & Simon Steadman
Produced by SolidState
サムによる「クエンティンに彼女を作ってやろう」作戦で、美人の客のリクエストに応えて演奏した童謡のカバー。まんまとクエンティンの彼女になるリジーを演じたゾーイ・グラハムはリチャード・リンクレーター監督作『6才のぼくが、大人になるまで』でもヒロインを演じていた。メインボーカルはサム(クラダップ)、部分的にウィリー(クウェラー)。サントラにはなぜかメイシーの掛け声「Drain your glass!!」が入っていない。サム、クエンティンともにエレキギターを演奏している。

●M29 :(曲名不明)
Written and produced by Eef Barzley
ケイトから改めてジョシュの事件の真相を突き付けられたサムの悩みを反映したような曲で、ライブ後の打ち上げ的なホームパーティのシーンで流れる。序盤の葬式のシーンと同じ曲の別バージョンで、ピアノ、エレキギター、アコギ、チェロ、ドラムの編成。サントラには未収録。前述の通り、イーフ・バーズレイが手がけたスコアの中で唯一暗い印象を持った曲。しかしこのパーティではクエンティンもエイケンも彼女を膝の上に載せているのだが、アメリカではカップルの標準なのだろうか。

●M30 :(曲名不明)
Written and produced by Eef Barzley
ジョシュの誕生日に墓参に来たサムと元妻のエミリーが墓を掃除するときのBGM。短いギター(もしくはウクレレ)の曲で、サントラには未収録。

●M31:ELLA ARRESTO
Written by Daniel Guzman Loyzaga & Osnel Odit Bavastro
Arranged by Loyzaga & Bavastro
Courtesy of Extreme Music
サムがペンキ塗りの仕事を辞めるシーンで、ラテン系の仕事仲間カルロスが聴いていたサルサ。クレジット上ではパフォーマーの記載がなく、詳細不明。

●M32:A DAY ON THE WATER
Written and produced by Eef Barzley
M06とほぼ同じ曲で、コーラス等が追加されている。ラダレスのバンドメンバーとガールフレンドたちがヨットクルーズに出るシーンのBGM。

●M33:(曲名不明)
Performed by Chelsey Cope
ヨットでトリー役のチェルシー・コープがギターで爪弾いている曲。曲というよりアドリブか。

●M34:DON'T YOU WORRY
Written by Ben Kweller
Performed by Willie and Friends
演者の名義は「ウィリー&フレンズ」となっているが、ヨットの上でウィリーとトリーが2人でハモっている小曲。作曲はウィリー役のベン・クウェラーで、クウェラーはウクレレを弾いている。

(※ちなみに何度か映画を観返していて気付いたのだが、トリーは最初エイケン(ドラム)のガールフレンドとして登場するのに、ホームパーティーのシーン辺りからウィリーの彼女になっていて、エイケンにはまた別の恋人(おそらくリジーの連れのエイプリル)ができている。表立っては語られないが、いかにもバンドマンらしい恋愛劇がちゃっかりと繰り広げられていたようである)

●M35:SOFTLY (LIKE SWINE)(推測)
Written by Holter & Standal
Courtesy of Extreme Music
サムがデルから「なぜフェスに出たくないのか?」と質問される時に楽器店で流れているBGM。小さい音量でなのでよくわからないがフリージャズ風。これもクレジットからの推測であり、曲の正体がつかめていないので間違っているかも知れません。

●M36:BEAUTIFUL MESS
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Rudderless
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
劇中で唯一、クエンティンが作曲した楽曲。ジョシュの曲がどれもアコギで作ったように聞こえるのと対照的に、エレキギターのリフから構築されている。歌詞の多幸感や弾けるようなノリのよさも他のラダレスの演奏とは一線を画しており、ソリッドステートの2人の職人技が効いている。クエンティンとサムはどちらもエレキギターを弾いている。

●M37 :UN RATICO
Written by Fonesca & Nino
Courtesy of Extreme Music
フェス会場のBGMとして流れているラテン曲。同じくサルサ調の「ELLA ARRESTO」なども権利を持っているレーベルが同じなので、グロスで安く使えた音源なのかも知れない。『君が生きた証』のような低予算映画だと有名曲は使用料がバカにならない。

●M38: THE GIG IS OFF
Written and produced by Eef Barzley
ケイト=アンの告発でフェス出演を取りやめるシーンで流れるBGM。イーフ・バーズレイのレイドバックしたウクレレに後半ペダルスティールが絡んでくる。サントラ収録のバージョンはなぜだか唐突に終わる。

●M39:THE WASHINGTON POST
Written by John Philip Sousa
Performed by Boulevard Brass Quintet
ヨットレースでブラスバンドが演奏している行進曲。誰もがどこかで耳にしたことがある有名曲その1。

●M40: STARS AND STRIPES FOREVER
Written by John Philip Sousa
Performed by Boulevard Brass Quintet
ヨットレースでブラスバンドが演奏している行進曲。誰もがどこかで耳にしたことがある有名曲その2。

●M41:1812年序曲(1812 OVERTURE)
Written by Tchaikovsky
Performed by Charlton Pettus
チャイコフスキーが1880年に作曲したオーケストラ用の序曲。1812という年号はナポレオンのロシア遠征の年。サムがヨットの舳先にギターアンプを固定して、ヨットレースをぶち壊すべく掻き鳴らすエレキギター演奏はこの序曲のアレンジ。実際に弾いているのはビリー・クラダップではなく、劇中曲の作詞作曲とプロデュースを担当したソリッドステートの1人、チャールトン・ペッタス。

●M42:(曲名不明)
サムが銃乱射事件の現場を訪れ、慰霊碑の前で崩れ落ちるシーンのBGM。アコギ、コーラス、スライドギターなどを重ねながら「Sing Along」のコード進行を繰り返しており、ジョシュのことを想うサムの心情と繋がっている。クラダップのエモーショナルな演技も素晴らしいが、感傷をセンチに煽り立てるのではなく、優しく包み込むような曲をのせたイーフ・バーズレイ&メイシーにも拍手。

●M43:ALREADY THERE
Written and Performed by George Byrne
Courtesy of Extreme Music
クエンティンがバイトをしているドーナツ屋「Buck's Space Age Donuts」で流れているBGM。オーストラリア出身、LA在住のミュージシャン、ジョージ・バーンの楽曲。内省的なシンガーソングライター然とした曲調はクエンティンの趣味なのかどうか。これも権利元がExtreme Music。劇中では「Buck's Space Age Donuts」のTシャツが何度か出てくるが、誰か作ってくれないか。

●M44:SING ALONG
Written by Simon Steadman & Charlton Pettus
Performed by Billy Crudup
Produced by SolidState
Courtesy of Nakatomi Plaza Publishing/Margerine Music
ジョシュの未完成曲にサムがサビのメロディと歌詞をつけて完成させた弾き語り。後半からはエレキギター、ベース、ドラム、キーボード、ストリングが加わる。曲と物語があまりにも密接に繋がっているので多くを語るべきではないが、歌声と表情の説得力でラストシーンを成立させたクラダップが本当に素晴らしい。サムが弾くギターはデルの店で購入した中古のアコギに代わっている。

(※ネタバレ注意/このシーンで客が泣いている姿をカットインさせる演出をクサい、ベタな誘導だと批判する意見があるようですが、客席で涙ぐんでいるのはサムの仕事仲間だったクイック(Joey Bicicchi)と店の眼鏡のウェイトレス(Cacky Poarch)だけであり、サムのことをずっと見ていた2人であることを指摘しておきたい。一方で店長のトリル(ウィリアム・H・メイシー)が終始厳しい表情を崩さない描写も、この複雑なテーマを扱った作品が安易なお涙頂戴に走っていない証拠だと考えています。客席でクイックと座っている黒髪の女性はラダレスのファンだという妹かと思っていたが、よく見たらテーブルの上で手を繋いでいるので恋人な気がしてきした)

●M45:ALWAYS GOLD
Written by Benjamin Cooper
Performed by Radical Face
Published by Penny Farthing Music obo Roy Berry Works At Planet Radio
Courtesy of Bear Machine LLC
アメリカのシンガーソングライター、ベン・クーパーがソロユニット「ラジカル・フェイス」名義で発表した楽曲。兄弟のように育った大切な誰か(兄弟かも知れない)との絆と別れを歌った詞もエンドクレジットの余韻にピタリとハマり、作品のエンディングテーマ的な役割を果たしている。

●M46:OVER YOUR SHOULDER
エンドクレジットの2曲目はラダレスの曲のリプライズ。「僕を見張って、見守っていて」という詞が、2度目にはまた違った感慨を持って響いてくる。

●M47:SAM SPIRALS
エンドクレジットの最後の曲は、イーフ・バーズレイのスコアからM04を再び。微妙にアレンジが違う別バージョンな気もするので、また確認してみます。

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イーフ・バーズレイのスコアのレコーディングに参加したミュージシャン一覧。バーズレイが拠点にしているナッシュビルのスタジオミュージシャンで、ヨラテンゴのジェームス・マクニューも絶賛するナッシュビルのオルタナカントリーバンド「ラムチョップ」のメンバーや、バーズレイのバンド「クレム・スナイド」のアルバムに参加した顔ぶれも。

Eef Barzlay 
Original Score / Music, Voice, Guitar, Baritone, Ukulele, Cuatro

Tony Crow / piano, organ
Carol Rabinowitz / cello
Byron House / bass
Pete Finney / pedal steel
Ben Martin / drums, percussion
Jordan Caress / voice

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余談ですが、劇中でオーナー役をウィリアム・H・メイシーが演じていたライブバー「トリル・タヴァーン」はオクラホマシティの北にあるガスリーという町のダウンタウンに作られた撮影用のセットです。

しかし現在、同じガスリーの町にTrill Tavernという名前のライブスペースがオープンしているらしい。ホームページの住所を見る限り、ロケ地とは別の建物ななのですが、ネットで写真を検索すると天井やレンガの壁や映画と同じに見える。どうも残されていたロケ用のセットを再利用している可能性が高い。

毎日やっているわけでもないようですが、オクラホマに行く機会のある人にはぜひ覗いてきて欲しいです。

(撮影で使われた「トリル・タヴァーン」の建物。住所は202 W Harrison Ave, Guthrie, OK 73044)





またデルの楽器店もトリルの店から歩いてすぐの場所にあるようです。ただし楽器店なのは映画の中だけの話で、実際には中古車ディーラーの模様。デルがキャンピングカーの運転に四苦八苦した路地はロケ地の建物の真裏。

(デルの楽器店に使用された建物。住所は100-198 N 2nd St, Guthrie, OK 73044)





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実はもう一曲、ジョシュの死後にサムが職場に復帰しようとするシーンでカーステレオから音楽が流れているのですが、ラジオという体裁で時間もわずか、SHAZAMに聴かせても認識せず、クレジットにも入っていないので割愛しました。

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その他不明点などまだまだありますので、なにが情報をお持ちの方、ご提供いただけると嬉しいです。

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※曲解説に収まり切らなかったことを追記しました(2016.6.24.)
↓↓
「君が生きた歌詞」にまつわるアレコレを追記

1 件のコメント:

  1. 人生の中で出会った映画で最高の作品の1つです。ジョシュを失ったサムの葛藤と、それを乗り越えようとするも乗り越えられない壁、全てが曲の中に入っている。

    サントラ買って今でも聞くほど好きな曲たちなので、全曲の解説最高でした。また映画見たくなりました!

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