2016年6月24日金曜日

【トリビア】「君が生きた証」にまつわるアレコレを追記。

アントン・イェルチンの事故はリコール車の欠陥が原因だったことがはっきりしてきたようで、メーカーに対する集団訴訟が起されたとのニュースが。シフトを「P」に入れても「N(ニュートラル)」になってしまう不具合で、コンピューター制御なので修理方法はソフトウェアをインストールするだけらしい。自動車の操作がもっとアナログだった時代にはありえなかった事故であり、AI化の弊害ってもはやSFだけの話じゃないな。

前回の「君が生きた証」全47曲解説というかなり自己満足的な投稿を、思いもよらず大勢の方に読んでいただいたようで本当にありがとうございます。改めて映画を見なおしたり、調べものを再開したりしていたら、気になることが次々と出てきて加筆や修正を繰り返していたのですが、もはや「曲解説」でもなんでもない内容が増えてきたので、メモを兼ねてトリビア的にざっくりまとめておきます。


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◇ジョシュのギターケースに書かれたメッセージ

映画が始まって早々に亡くなってしまうジョシュの内面を覗く手がかりは「ジョシュが書き遺した曲しかない」とあちこちで書いたが、脚本のケイシー・トゥウェンターとジェフ・ロビンソンの当初からのコンセプトでもあったらしく、初期段階の脚本ではジョシュはまったく登場せず会話の中だけで語られる予定だったという。

全曲解説でも触れたように、「Home」と「Asshole」は映画のために書かれた曲ではなかった。もしかするとFINKが作詞作曲した「Over Your Shoulder」も映画を想定せずに書かれていた可能性がある。そういう曲がジョシュ像を肉付けして、脚本家の意図を超えた奥行きを獲得しているのがこの映画の興味深い点のひとつだと思う。

ただ「曲の歌詞だけしかない」というのはちょっと誇張でした。「ジョシュとはどんな人物だったのか?」を推し量る材料は、実は曲や歌詞以外にもあったのだ。例えばジョシュのギターに貼られていた王冠のマークがそうだ……という話は全曲解説でも書いたが、ジョシュが使っていたギターケースにもある種の手がかりが散りばめられていたのである。

ジョシュのギターケースは使い込まれてボロボロになっているのだが、あちこちに詩のような文章が白い文字で書かれているのだ。劇中ではまったく言及されないし、映像を一時停止しても読み取るのは至難の業。パズルのピースがあちこち抜けた断片ではあるが、読み取れたものをここに記しておく。

「everything in it's right Place....」
「come where you will see that men that you will need」
「hold your Sun, armor your heart Protect them alone」
「Run with Me 2 (解読不能) I will (解読不能) be your Fly (解読不能) me up inside Fun (解読不能)」
「(解読不能) white that Everyone was (解読不能)」
「THE ACCIDENTS WAITING (解読不能)」

読めない部分も多く、間違っている箇所もあると思う。これでなにか情報が明らかになるわけでもないのだが、ジョシュってこんなことを書く青年だったのかとほのかな灯りがともった気がしなくもない。「THE ACCIDENTS WAITING」みたいなフレーズを意味深に捉えたくなる欲も湧くけれど、短絡的に銃乱射事件と紐づけてしまうのは野暮というものだろう。

しかしこの文章を考えたのは誰だったのだろう? 優れた美術スタッフかそれとも脚本家コンビだったのか、改めて関係者にインタビューしてみたい。

◇ジョシュとクエンティンが貼っていたポスター
ジョシュの実家の部屋と、クエンティンの家のガレージに貼ってあったポスターがこれ。ニューヨーク州シラキュースで毎年行われているイベント「The Great New York State Fair」の一環で、2006年9月1日にウィーン、フレイミング・リップス、ソニックユース、ザ・マジック・ナンバーズが出演したライブの宣伝ポスター。(ちなみに2011年のNew York State Fairにはケイト役のセレーナ・ゴメスが出演している)

目を止めたサムに、クエンティンが「リップス好き?」と訊くシーンがあるが、リップスとはフレイミング・リップスのこと。リップスと名乗るバンドはベルリンやブルックリン、東京にも存在しているようだが、本件との関連はない。

ポスターのデザインをしたのはロック系のアート作品を数多く手掛けているジャーメイン・ロジャーズ英語版WIKIによるとブルックリン在住で1972年テキサス州ヒューストン出身。公式サイトのプロフィールには「人間、男性、年齢は日替わり」と書かれている。

◇ラダレスのメンバーが弾く楽器の話

趣味でギターを弾くわりにあまり詳しくなくて恐縮なのだが、本作に登場するギターはギブソン系が多い、クエンティンに至っては完全にギブソン派だと言っていいと思う。

・クエンティンが憧れる緑のエレキギターは、劇中のセリフによると「1978年製のレスポール、ローズウッドのソリッドボディ、ピックアップはゴールドプレートのハムバッカーで、指板に埋まっているインレイはパール製」とのこと。

・クエンティン所有のサンバーストのアコースティックギターもギブソン製。ロゴが現在とは違う古いもので、ヘッドに「ONLY A GIBSON IS GOOD ENOUGHと書かれたバナーが入っている。このタイプは第二次大戦中に男性が戦地に行って人手不足となり、代わりにギブソンのギター工場で働いた女性たちによって作られた。1942~1945年の限られた期間にしか生産されていない珍しいものなので、もしかするとクエンティン憧れの緑のレスポールよりもはるかに高価なのではないか(ただし1995年に復刻版が発売されたようだ)。

・戦時中にミシガン州カラマズーにあったギブソン工場で働いた女性たちの実話については「Kalamazoo Gals」のタイトルで2013年に本になっている。面白そうなのでそのうち読んでみたい。

・ラダレスのベース、ウィリー(ベン・クウェラー)が使っているのもギブソン社製のSGベース。本来ベーシストでないクウェラーは指引きではなくピック弾き。

・ジョシュが遺したアコースティックギターは全曲解説でも書いたようにエピフォン製。エピフォン社はギブソンのコピーを多く作っていて、現在はギブソンの子会社になっている。カラーはサンバースト。ピックガードの「E」マークの様子などから、詳しい人なら年代や型式がわかるのではないだろうか。

・クエンティンが「Real Friends」などで弾いている白いエレキギターもエピフォン製。

・リハーサルやラダレスのステージでサムが使っているエレキギターは黒のレスポールタイプだが、ロゴが判読できずメーカーはわからない。サムは狭いヨット暮らしで何本のギターを持っているのだろうかと思ったこともあったが、これはクエンティンのガレージに置いてあったクエンティンの私物で、エレキが必要な時に借りて使っている模様。ヘッドのロゴはハートマークをあしらったちょっと気恥ずかしいデザイン。

・サムがヨットレースをぶち壊すシーンで弾いているのはグレッチ製のソリッドボディのエレキギター、デュオジェットの黒。ネックにインレイが見えなかったのでヴィンテージ物ではなく最近の型かも知れない。たぶん20万台から30万円くらいのお値段。劇中でのこのギターの由来は不明。もともとサムが持っていて、ヨットの中にでも置いていたのだろうか。キャンピングカーを動かしたことでデルからせしめたとか。いやまさか。

・エピフォンのギターを失ったサムがラストシーンで弾いているギターはデルの店で入手した中古。「X」に似たロゴマークに見覚えがある気がするのだが、どこのメーカーなのかはよくわからない。このギターも含めて、どうもサムは黒いギターが好きなようである。

・クエンティンが「Real Friends」のステージで使っていたエフェクターボード。手前がERNIEBALLのボリュームペダル「VP JUNIOR 250K」、上段奥がIBANEZの「STEREO CHORUS CS9」、その手前がBOSSの「Digital Delay DD-3」だと思われる。下段の3つはなんとなく観たことがある気がするけれど思い出せない。誰か情報あれば教えてくださいませ。

スチール製のエフェクターボードはもしかするとペダルトレイン社の「PEDALTRAIN-2」ではないだろうか。私事ですがこれ使ってるわ。

◇サムが働いていた広告代理店

Google Mapで発見。左の入口の赤い建物がサムの職場だった広告代理店のロケ地。実際にはFunnel Design Groupという事務所らしい。サムの車が奥に見える高架線路の下をくぐって走ってくるシーンで登場。所在地はオクラホマシティ(17 NW 6th St、Oklahoma City, OK 73102)

◇「Rudderless」という曲のこと
エヴァン・ダンド率いるオルタナロックバンド、レモンヘッズが1992年に「Rudderless」という曲をリリースしている。劇中で言及されることはないが、レモンヘッズはアメリカのインディロックシーンでは重要な存在であり、クエンティンは聴いていないはずがない。またジャンルや歌詞が映画の世界観と通じるものがあるので、映画のタイトルにもなんらかの影響は与えているのかも知れない。英語詞はリンク先のyoutubeにも載っています。ちなみにエヴァン・ダンドとウィリー役のベン・クウェラーは一緒にツアーを回るなど以前から交流がある。

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